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令和3年度 9月生徒朝礼 学校長訓話「口角を上げて」

 先日、東京オリンピックにアーティスティックスイミングで出場した安永真白、京極おきな両選手の訪問がありました。二人は本校の卒業生で、現在は近畿大学に在籍しています。オリンピックが1年延期された影響や厳しい練習を乗り越えて代表選手になり、そして見事4位入賞を果たした二人に改めて心から拍手を送りました。

 かつてシンクロナイズドスイミングと呼ばれていた競技がアーティスティックスイミングとなり、演技が技術的観点だけでなく芸術的観点が重要視されるようになったそうです。そのために笑顔をつくるトレーニングもするそうです。辛く厳しい状況でも常に笑顔を失わない強いメンタルが求められるという話を笑顔で話してくれました。

 そしてその二人の素晴らしい笑顔を見ながら、同じ東京オリンピックで活躍した卓球の伊藤美誠選手の言葉を思い出しました。

伊藤選手はどんな試合でも勝つだけではなく、「楽しみたい」と考えているそうです。それでも厳しい状況になると表情が険しくなるそうです。「そんなときは、あえて口角(口の両脇)をぐっと上げ、笑顔をつくるようにしている」そうです。私もそんな場面をテレビで何度か目にした記憶があります。

 笑顔になることで楽しい気持ちを思い出してポジティブになり、積極的にプレーができ、その結果、金・銀・銅、3つのメダルにも繋がったようです。

 この言葉から、陸上競技の米国のカール・ルイス選手にまつわるエピソードを思い出しました。彼は今から30年前に初めて100mを9.8秒台で走った人類だと言われています。彼は100m走のとき80m付近までは3番手か4番手の位置にいて、残りの20mで抜き去るというレースをしていました。そしてその80m付近で笑ったように見えたそうです。

 彼のコーチは「笑って走れ」と指導していたそうです。80m付近で意識的に笑顔をつくり、スピードが更に加速し最後の20mを駆け抜けていたそうです。コーチは精神的にも肉体的にも100mを完全に緊張した状態で走りきることは難しいと考え、そこで80mあたりで「笑え」と指導していたそうです。

 人間の身体は、笑うことで筋肉や関節がリラックスして柔らかくなるそうです。そして柔らかくなれば、手足はスムーズに動くことになるそうです。当時、日本のスポーツ界では歯を食いしばって最後まで頑張れという指導が一般的であり、失敗は許されないという雰囲気の中で笑うなどは不謹慎だと捉えられていたそうです。

 私自身も応援や激励する時に、無意識、無自覚に「頑張れ」「頑張ろう」と言ってしまう場面があります。どうも「頑張れ」という言葉の裏には「歯を食いしばって最後まで頑張れ」というニュアンスが多分に含まれ、そこには失敗は絶対に許されないという緊張感が生まれ、結果として本来、必要である余裕がない状態になり、まさに100m走ならば、最後の20mは手足が硬直してスピードが鈍るだけかも知れないと改めて感じています。

 またスポーツ心理学でも、苦しい状況の乗り越え方として笑顔でリラックスしている方が、冷静さを保って立ち回ることができ、身体もスムーズに動くそうです。ただし、そのような効果を得るためには、毎日の鍛錬、意識付けのトレーニングが必要になるそうです。

 そしてこれはスポーツだけではなく、仕事や学習、人との関係など多くのことにも当てはまるように感じています。日常生活の中で私たちが色々なことに取り組む際に焦りや緊張などから、自分が気づかないままに顔がこわばることや場面がたくさんあります。

 普段から笑顔を心掛けることで、ここ一番というチャンスを捉え、ピンチを乗り越える強さを得ることができそうです。伊藤選手の言葉のように、笑顔がなくなっていることに気づいたら、いったん肩の力を抜いて深呼吸し、口角を上げて笑顔がつくることが大切だと思っています。「ピンチの時は口角を上げて」を忘れずに、それぞれの目標に取り組んでくれることを期待しています。

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