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令和3年度 3学期 終業式 校長訓話「離見の見」

 おはようございます。蔓延防止重点措置も解除され、コロナの感染状況も少し落ち着いて生きように感じています。本年度の中高でのコロナ罹患者数は約300名となりました。幸いにして重症化する事例はなく少し安堵していますが、皆さんには引き続き、感染対策への理解と協力をお願いします。

今年度も本当に色々な経験をしながら、戸惑いや不安の中で過ごした1年であったように思います。3学期も通常の授業とon-line授業が、併用された学びとなりました。これからの学校生活においては、このような状態が続くことも予測されます。皆さんには、一人ひとりがその学び方の違いを理解し、うまく使い分けられることが求められます。そしてそれがこれからの学び方を身につけることにも繋がります。

 3学期の終業式に際して、今日は脳科学や教育の分野で注目されている「メタ認知」について紹介します。メタ認知とは認知心理学の用語で、自分の考えについて考えること、あるいは認知に対する認知のことになります。

 メタ認知のメタとは「高次の」という意味で、自己の知覚、記憶、学習、言語、思考などの認知活動をより高い視点から、あたかも第三者のように客観視して、これらを理解、評価、制御することを意味します。

 メタ認知能力の高い人とは、イメージ的には自分とは別にもう一人の自分がいて、自分のことを上から客観的に眺めて自分自身をコントロールできる人であり、自分の能力ついて、何ができて何ができていないかやどの程度できるかを知っていることで、それは「自分の認知を認知する」ことになります。

 メタ認知は、視点を多面的に活用することで自分という存在を新しく認めたり、自分の考えたことや学んだことを頭の中でもう一人の自分と相談し、コントロールできます。つまりメタ認知とは、自分の感じ方、考え方を客観的に捉えることで、問題解決や自己成長に繋げる能力となり、近年はマネジメントや人材開発領域でも注目されています。

そしてこの能力は生まれながらに持っているものではなく、トレーニングして身に付けるものになり、学習やビジネスでの課題解決などにも役立つ能力になります。

 室町時代に能楽を大成した世阿弥が、能楽論書「花鏡」で述べた「離見の見」という教えがあります。その教えとは、演者が客観的な視点を意識することです。舞を舞う演者の視点を「我見」といいます。そしてそれは役者自身の視点となります。それに対して舞台を見る観客の視点を「離見」というそうです。

 我見では、目の前や左右を見ることはできるが、自分の後ろ姿や演じている姿は見ることはできない。しかし離見では、演者の見えない所まで見ることが可能になります。 世阿弥は、舞うためには我見だけでなく「離見の見」が必要であると説いています。つまり演者は自分が見ているものだけでなく、演じている自分の姿も見なければならない。

 演者は離見の見を持つことで、自身の演技を俯瞰する意識を持ち、美しい所作、芸の完成を遂げることができるとされています。これは能楽という芸を磨くための芸術論ですが、色々なことに通用、活用できる教えだと考えられています。今から600年以上も前の書物であることに改めて驚きます。

 真逆の視点はクリティカルシンキングに、俯瞰する視点はメタ認知と、様々な視点を持つことこそが、多様性を容認できる力に繋がるようにも思われます。皆さん一人ひとりが、それぞれの目標の実現に向けて色々な視点を持ちながら、笑顔で取り組んでくれることを大いに期待しています。

 最後に一つ皆さんに報告することがあります。実は私自身も、今年度この3月末で教員生活を卒業することになりました。今振り返ると長いような短いような色々なことを経験できた42年間だったように感じています。沢山の先生方を始め、皆さんや多くの卒業生に出会えた充実した教員生活であったと心から感謝しています。

 皆さんには色々な話をする毎に、これからの社会を生き抜く為には、予測不能なこと、未知なることへの対応力や適応力の重要性を発信してきました。そして私自身もその実践者として、今後は今までとは全く異なる地域、環境、そして新しい分野で働き、暮らしていく予定になっています。皆さんの手本になることは難しいかも知れませんが、見本になれるように有言実行で楽しみたく思っています。

その折には二つの言葉を大切にしようと考えています。一つは、晩年まで新しい表現を求め、最期まで新しい道を模索し続けたパブロ・ピカソの「明日描く絵が、一番素晴らしい」という言葉と、もう一つは、作家、教育評論家の中井俊巳さんの「いいことが起きたから笑顔になるのではなく、笑顔だからいいことが起きる」という言葉です。この二つの言葉と伴に人生100年時代といわれるこれからを歩んでいきたく思っています。皆さんとの出会いに心から感謝し、離任の報告とします。本当に有難うございました。

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