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令和2年度 卒業式式辞

 厳しい冬を乗り越え、校庭の梅の花が満開になりました。雨に洗われた木々にも新芽が姿を現し、春の息吹が感じられるこの良き日に、令和2年度第73回近畿大学附属高等学校の卒業証書授与式を挙行できますことを心より嬉しく思います。

 卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。本日ここに889名が高等学校の全課程を見事に修了し、卒業の日を迎えました。様々なことを乗り越え、最後まで全力で頑張り通した結果です。今日という日を迎えたことに全員が大いに胸を張って下さい。改めて皆さんの真摯な努力に心から敬意を表します。

今年度、私たちはコロナ禍という予測不能の事態に直面しました。様々な工夫や色々な変更を重ねながら、この状況下においての最適解、納得解を探り、伴にできる限りの対応を重ねてきました。多くのストレスや窮屈さを覚えながらも、目標に向けて日々取り組んできました。

視点を変えれば、これからの予測不能な社会への序章であったとも受け止めることができます。大切なことは、この経験を私たちにとって価値あるものにどのように繋げることができるかどうかということになります。

 今日は、卒業に際して井深大(いぶかまさる)氏の言葉を紹介します。井深氏は、盛田昭夫氏と伴にソニーの創業者の一人して知られ、1950年に日本初のテープレコーダーを開発、発売しました。その5年後に日本初のトランジスターラジオを開発し、1979年にウォークマンの発売によりソニーを世界的企業に育て上げました。

「メカナイズされたり、ハイテク化すればするほど、人間と人間の関係が非常に重要になり、人を受け入れ受け入れられ、人と本当にうまくやっていける人間が必要となってくるんですね。21世紀になったら人間とか愛情とかいうものがますます重要なファクターになってくると思うので、自分に磨きをかけ、人との関係を大切に心がけていく必要があろうと思いますね」

「物理も化学もすべてそういうものは道具と考えると、必要なときに勉強しても遅くはないんだけれども、哲学とか信念とかいったものはなかなかおいそれとは育たない。だから、そういう勉強をし、興味を持つような人を集めていかなければならないのではないかと思うんですよ」

 これら言葉は今から30年前にソニーの社内報で紹介されたものです。そこには、大事なことは技術そのものではなく、技術を支える哲学であるという思いが込められていたようです。

 井深氏は少年期に無線などに凝り、早稲田大学理工学部時代にすでに発明家としての頭角を現していたそうです。根っからの技術者ではあるが、イノベーター(革新者)として傑出した才能を発揮できたのは、感性が豊かであったからだと評されます。

「この人はこれだけしか能力がない」と決めつけると、その能力は引き出せないとの思いから、企業経営の傍ら1972年にソニー教育振興財団を設立、理事長として幼児教育に深く関わり、「私も当初、間違えていました。早く字や算数などを教えるのが大事だと思っていましたが、本当は心をいちばん先に教えなくてはいけないのです」と話されていたそうです。

 そこには、言葉を覚え論理的な思考をつかさどる左脳と、直観、ひらめき、創造などの働きを持つ右脳のバランスが大切であり、左脳が先にどんどん発達すると右脳の自由な創造力が弱くなると考えられたようです。 

その後も発明協会の会長をはじめ多くの団体の役職を歴任され、84歳で産業人として初の文化勲章受章し、21世紀の状況を見据えながら1997年に享年90歳で亡くなられました。

 現在、IT技術の発展は目覚ましく、AI技術は単純作業だけでなく長年の熟練を必要とする仕事にも、応用できる発展が見込まれています。

 これからの社会を生き抜く為に必要な能力とは、AIが「解なし」と言った時にこそ本領を発揮できる力であり、それが人間の果たすべき役割、人間が担うべき仕事において求められる能力となります。

 これからの大学や社会での皆さんが取り組む学びは、自分は何をしたいのかという主体性と自分はやればできるという自己肯定感、そして自分は役に立つ人材なのだという自己有用感をしっかりと持つことで成立します。

 最後に井深氏の「若い方々へ伝えたいこと」を紹介します。

「若い人にぜひ伝えたいことが、二つあります。一つは、自分自身を大切にすること、
 自分を生かすということと合わせて、それと同じくらいのウエイトで、他人(ひと)のために、社会のために何かできることはないか、ということを考えていただきたい。
 また、そういう気持ちを、ぜひ持っていただきたいということです。
もう一つは、しっかりとした生きるよりどころを、ぜひ持ってもらいたいということです」

 皆さんには、自分の力に自信を持ち、じっと待つのではなく自らが積極的に求めなければ、何も手に入れることはできないということを、今一度、理解して欲しいと思っています。自分の進むべき先をしっかりと捉え、自分の可能性を信じ、力強くスタートしてくれることを大いに期待し、皆さん全員が元気に笑顔で、様々な分野で活躍することを心から応援しています。

 最後になりましたが、保護者の皆様、本日はご卒業おめでとうございます。改めて心よりお祝い申し上げます。このような形での卒業式になりましたことを心苦しく思っております。現在の状況を鑑みての判断にご理解をお願い申し上げます。
 これまで本校の教育活動に、ご理解ならびに多大なご協力ご支援を賜りましたことに
重ねて御礼申し上げます。皆様方との出会いに感謝申し上げますと共に、卒業生の前途が幸多いものとなることを祈念いたしまして祝辞とさせて頂きます。

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