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令和2年度 10月生徒朝礼 学校長訓話「Self-Compassion」

 今年度は例年より2学期を少しはやめてスタートしました。残暑の厳しい中大変でしたが、皆さんの理解と協力と頑張りに心から感謝します。10月に入ると朝晩は随分と秋めいてきました。改めて季節の移ろいを感じています。

しかし現在もコロナウイルスへの感染は止まらず、世界中で多くの人々の生命が失われています。社会生活、経済活動等、多くの分野で様々な影響が出ています。日本でもコロナ禍の第2波があり、今後も更に続く可能性も指摘されています。コロナ禍がすぐに終息することは難しいと予想されます。

 以前のような生活に戻ることもかなり厳しいようで、AfterコロナWithコロナとしての新しい生活様式が、今後も継続されることになりそうです。2学期の学校生活や学校行事も色々と変更しなければなりませんが、実り多いものとなるように皆さんと共に工夫しながら取り組んでいきたいと思っています。

 今回のコロナ禍において、私たちは今まで経験したことのない自粛生活を求められ、精神的にも肉体的にも辛い日々を過ごし、様々な制限にストレスや先が見えない不安も感じる毎日を過ごしていますが、見方を変えると、この辛い生活をしているからこそ、日常の生活や当たり前であることの有り難さに、改めて気づくことができた貴重な体験だとも受け止めることができます。

 今、私たちが問い直さなければならないことは、何が普通であり何が当たり前であるかということになります。大切なことは、Withコロナとして今までの生活に少しでも戻そうという考え方ではなく、Postコロナ(節目)としてこれからの新しい生活を創るという発想になります。

 今日は、Self-Compassionという言葉についてお話しします。Self-Compassionとは、米国の社会心理学者クリスティン・ネフ博士が唱えた概念です。Self(自分に対する)Compassion(思いやり)となり、自己への「慈しみ」によって「あるがままの自分を受け入れる」ということになり、心の健康を保つのに効果があるそうです。

 慈しみとは、慈愛、相手のことを大切に想う心であり、「自分に優しくすること、ありのままの自分を受け入れ大切にすること」を意味します。しかしそれは、決して自分を甘やかすことではなく、自分と向き合い、良いところ悪いところのすべてを受け止め、しっかりと考えて自分の成長へ繋げることになります。

 例えば失敗をして落ち込んだ時に、自分ではなく友人が同じ失敗をしたら、どのように声を掛けるかをイメージし、その言葉を自分に向けて声に出してみることです。つまり誰かが悩んでいたり苦しんでいたりした時に思いやりや優しさを向けるのと同じように、自分に対して思いやりを向けることになります。他人と比べて違うことだけに注目せずに、失敗や挫折は、自分だけではなく他人も同じように経験しているものだと、共通することに意識を向けることも大切だそうです。 

 最新の心理学研究では、ネガティブ思考を無理に矯正してポジティブ思考にするのではなく、まずはSelf-Compassionに取り組もうという傾向が強くなっているそうです。 Self-Compassionを実践していくと無理をせず本当の自分に基づいて行動でき、メンタルが良好に保たれ、身体的な健康も維持できる効用が確認されているそうです。

 Self-Compassionの高い人は、失敗や挫折は誰にでもあることだと前向きに受け止め、失敗を恐れずに行動でき、より大きな成長に繋げることができるそうです。そして自分に寛容になれるということは、同じように他人にも寛容になることができ、仲間とのチームワークをより深めることも実現できるそうです。

 Self-Compassionが低く自分への思いやりが不足していると、失敗や困難を乗り越えられなかった自分に対して批判的になるそうです。自分は駄目な人間だと自信を無くし、自分の気持ちがうまくコントロールできなくなり、他者への嫉妬や孤立感を感じて、少しのストレスでも大きなダメージになることが多いそうです。そしてそれは個人のパフォーマンスを低下させるだけでなく、チームや組織全体へも悪影響を与えることにも繋がります。

 「人に迷惑をかけてはいけない」という言葉は、皆さんも子どもの頃から何度も言われ、厳しく教えられてきました。これは他者を気遣う大切な教えであることは間違いありません。

 インドでは、親や教師が子どもを諭す言葉として、「あなたは人に迷惑をかけて生きているのだから、人のことも赦してあげなさい」と言うそうです。この言葉にはお互いに相手を認め合い、受け入れようという思いが込められているようです。

 「人は誰でも、この世に生を受けた瞬間から、周囲の人に頼り、お世話になって生きている」という言葉があります。それは、迷惑をかけることもかけられることも、お互い様と受け止めることができれば、他の人にもそして自分にも優しくなれるはずだという意味になります。

 これから私たちが生きる社会では、色々な価値観、様々な生活習慣を認め合いながら協働できることが求められます。皆さんがSelf-Compassionを高めて、自分も人も欺かない誠実さと、自分も他者も受け入れる「お互いさま」という寛容さを身につけ、Postコロナとして、これからの新しい生活を創ること楽しんでくれることを大いに期待しています。

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