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令和元年度 3学期終業にあたって 校長訓話:自分の判断

 今年度は例年と異なり臨時休校の状態で年度末を迎えることになりました。とても残念に思っていますが、皆さんの健康、安全を第一にした措置であると理解して下さい。

 終業日にあたり、今日は大学生を対象にした実験について紹介します。それはある新作映画の試写を複数の学生達に一緒に見て貰い、終了後にそれぞれに自分の感じたままの感想を書いて貰うということからスタートする実験です。

その後新作映画についてのディスカッションをおこないます。その中に実験を仕掛ける側のメンバーが入り、出演していた俳優に批判的な意見を多く述べるそうです。そして終了後にもう一度全員に感想を書いて貰います。すると最初の感想では俳優に好感を抱いていた多くの学生達が、一転して批判的な感想を書いたそうです。

そしてこの実験のまとめには、人は他人の意見、特にネガティヴな感情に影響を受けやすいものであり、特定の人や物に対して悪い印象を持った時「これは本当に自分の意見なのか」と振り返ることが大切だと結ばれていました。

日常的に私たちは無意識のうちに、周囲の意見、TVやインターネット等の情報に影響されている可能性があります。更にその情報の真偽を深く考えることなく、無自覚のうちに他者に拡散しているかも知れません。

 この実験の解説を読んだ時、1学期の始業式で紹介した「初頭効果」を提唱した心理学者のソロモン・アッシュの「同調実験」を思い浮かべました。これは、人は誰でも「同調圧力」に屈してしまうことを証明した有名な心理学の実験として広く知られています。

色々なパターンの「同調実験」がネット上で数多く紹介されています。そしてそれらの実験結果から、

① 本当に正しい解答が目の前にあっても、集団がそれを認めない状況下だと正しい解答を選べず、集団に会わせた同調行動を人はしてしまう。

② 集団での意志決定は声が大きい人が強くなり、正しくないものが正しいものとして選択されることがある。

③ 個人が集団の意志決定に同調するのは自己防衛を兼ねている。その方が自分にとって集団から攻撃されるリスクが少ないからであり、社会的動物らしい人間の特性である。

と考察されています。

重要なことは自分自身が人間としてのその特性を理解した上で、自分で考え、判断して発言、行動できているかを検証できるかどうかということです。

 最後に自由な校風を持つ進学校として知られている麻布高校の元校長である氷上信廣先生の言葉を紹介します。
「急流にあっても流れに持っていかれることがない自分だけの杭を作ろう。そしてその杭が本物かどうか吟味し続けよう」

 この言葉には、世間や周囲に流されず自分だけの価値観や判断基準を待つことの大切さが込められています。麻布学園は制服、校則がない自由な校風を持つ男子校ですが、「自由とはふわふわ漂うものではなく、何か絶対的なものにつながるもの」と、その自由に伴う責任と信念を持つ大切さを述べられています。

 今年度を振り返る時、皆さんは色々な場面で「自分だけの杭」を持っていたと実感できるでしょうか。言われたことや指示されたことを成し遂げること、時には周りに合わせることも勿論必要です。しかし自分でじっくりと考え、選択し、そして決断、実行できる力を身につけなければ、自身の更なるに成長に繋げることはできません。

 周囲の人達に信頼され仲間として協働できる人材として認められるのは、自分だけの信念を持ちぶれない生き方をする人です。そしてその判断基準が利己的なものにならないためには、「自分だけの杭」が正しいものであるかを常に問い続けることが重要になります。皆さん一人ひとりが自立した学習者になり、自分の志の実現に向けてしっかりと取り組んでくれることを大いに期待しています。

 令和元年度3学期終業日にあたり、来年度に向け自分のすべきことをしっかりと考え、全員が感染症予防等、健康に留意しながらこれから始まる春季休暇期間を過ごしてくれることを重ねてお願いします。

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