News

News

平成30年度 10月生徒朝礼 「見えない香り」

 今日は「見えない香り」という言葉についてお話します。10世紀頃から本格化した香水の製造は、20世紀初頭フランスでそれまで難しかった大量生産が可能となり、色々な種類の商品が店頭に並ぶようになったそうです。

 当時、香水は同じようなガラス瓶で販売されていました。すべての香りをお客さんに試して貰うことは難しく、折角、素晴らしい調合が完成しても、その素晴らしさをうまく伝えることができなかったそうです。その時に問題になったのが、「目に見えない香りをどのようにアピールするか」ということだったそうです。

 そこで見えない香りを伝えるために作られたのが、現在も受け継がれている美しいデザインの香水瓶だそうです。香水販売を始めたばかりのある小さな会社が、当時フランスの宝飾デザイナーであり、ガラス工芸家としても活躍していたルネ・ラリックに香水瓶のデザインを依頼しました。

それは企業の社運をかけた大きな経営戦略だったそうです。その依頼を受けてラリックは優美なガラス細工で香りの世界を表現し、香水瓶とセットになった香水は大人気となり、その後、その会社は大きく成長しました。その会社が、現在年商約40億ドル(4800億円)、世界90ケ国でビジネス展開する世界最大の香水会社であるコティ社だそうです。

 大切なのは、もちろん中身です。しかしその良さを伝えるためには、見た目にもこだわることも重要です。そしてそれは人においても同じことが当てはまります。自分の長所や魅力、自分が伝えたいことを理解して貰うためには、時には身だしなみ、挨拶や返事、言葉使いや表情など、素晴らしい中身や心にふさわしい外見や振る舞いも大切になります。

 企業や大学でメンタルコーチとして活躍し、大人気の自己啓発セミナーや講演会を開催しているマーシー・シャイモフさんは、世界的ベストセラーとなった「『脳にいいことだけ』やりなさい!」の著者です。日本語版では脳科学者である茂木健一郎氏が翻訳しています。
 シャイモフさんは「コミュニケーションにおいて『心の字幕』を読むことが大切だ」と述べています。例えば「帰宅した子どもに対して、お母さんが『決めた時間までに帰ると約束したでしょう。遅くなるならどうして電話しないの』と言ったとします。表情や声は怒りに満ちていても、きっと心の字幕には『何かあったのかと、本当に心配していたのよ』と書かれているはずです」と述べています。

 心の字幕とは相手の本心のことです。それが読めるようになれば、相手の言葉や態度だけでなく、その裏側や奥にある気持ちを受け止められるようになります。人と人とのトラブルにおいては、本心がわかれば解決することがほとんどです。表面的な言葉だけでなくその真意に耳を傾ければ、心の字幕が見えてくると言われています。

 皆さんがこれから生きるグローバルな世界では、生まれた国も地域も、育った環境も異なる多様な人たちと一緒にチームとして、協働することが不可欠となります。自分が話す時には「見えない香り」を、そして人の話を聞く時には「心の字幕」を、ちゃんと意識できればきっと自分のコミュニケーション力がアップするはずです。

 普段の学校生活の中で、自分の待つ良さを見えるようにする工夫と相手の本心を読み取る力をしっかりとトレーニングしてくれることを大いに期待しています。

  1. 一覧へ