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1学期終業式 学校長講話「デマゴーク」

 おはようございます。今年度は緊急事態宣言のもと臨時休業からの異例のスタートになりました。On-lineでの授業、また平常授業再開後も、マスクの着用や分散登校等の新しい生活様式、AfterコロナWithコロナのmannerの定着に取り組みながら1学期の終業式を迎えました。改めて皆さんの協力と頑張りに心から感謝します。

 コロナウィルスは今までのインフルエンザウィルスとは異なり、気温や湿度が高くなっても収まる気配がないようです。明日から夏期休暇となりますが、自分自身、家族、仲間、そして自分の生活を守る意識を持って行動することが重要になります。今後も色々な場面で予測不能の状況が起きる可能性がありますが、これからもチーム近大附属で協力しながら乗り越えていきたく思っていますので、宜しくお願いします。

 今日は以前に新聞のコラムで目にした歴史学者の磯田道史先生の言葉を紹介します。磯田先生は映画やドラマ等の時代考証を担当し、多くのテレビの番組でも活躍されています。「良質の1次情報に触れると我々は次に解釈する。解釈した中で今を生きる示唆、教示を得る。これが歴史の面白さです」

 1次情報とは、現場にいちばん近い情報のことであり、その情報を自分の経験や知識に照らし合わせながら検討し、自分なりの解釈、立場を作っていくことが大切である。そしてその過程こそが、すべての人に求められる生き方のスタイルであり、特に歴史を見る時の姿勢であるべきだと考えられているそうです。

 よく引用される例として「桜田門外の変」があります。わずか17名の水戸藩士たちが、なぜ60名という彦根藩井伊家側の包囲網を突破できたのか。この事件について誰もが疑問に思い考えたことです。

 実はその襲撃現場を間近で見て、記録した古文書が存在していたそうです。それは桜田門外の通りに面していた杵築藩(きつきはん:現大分県杵築市)の者たちが残した「江戸状之写 蔓延元申年之事」という書状だそうです。

 「当日は春で積もるまではいかないが大雪であった。井伊側は全員が笠に合羽といういでたちで、それぞれの刀には袋が被せてあった」と書かれていたそうです。つまり襲撃に際して井伊家側の武士たちは、すぐに刀が抜けなかったということになります。この情報はまさに良質の1次情報となり、この古文書の発見者は興奮したそうです。

 もう一つ例を紹介します。時代劇として人気のある「忠臣蔵」は、江戸時代の中期に実際に起こった事件である「赤穂事件」をもとにした物語だそうです。その劇中で、吉良上野介は、無情、非道の人物として登場し、悪人として仇討ちされる姿に観客は、溜飲を下げる物語になっています。

 しかし、吉良の領地であった愛知県西尾市では、正反対の評価がされているそうです。郷土の歴史家からは、吉良上野介は人情味あふれる名君であったと伝えられているようです。鎌倉時代の初めに誕生した吉良家は、領主として500年間、領民に信頼され、親しまれていたそうです。

 立場が変われば、見方や評価も変わります。噂や演出で事実が変えられていることもあります。大勢に流されずに多面的な視野を持って、物事を判断できることが重要になります。

 磯田先生の言葉は「噂のコピーは2次情報であり、これに慣らされると、歴史から学ぶものを返上するだけでなく、人として生きる意味も失うことになりかねない」と結ばれていました。

 ところが最近では、2次情報を何も検討、検証することなく、まるで自分が見たり聞いたりした情報のように受け止めたり、そのまま伝達することがまかり通っています。これは不確かな情報を拡散させるだけでなく、情報を収集し吟味しながら考える面白さを自らが放棄していることになります。

 「デマゴーク」とは、刺激的な言葉、説明や詭弁、虚偽の情報などを使い、人々を扇動する人のことを意味します。そしてその事実に反する情報や噂を「デマ」といいます。

 もともとは古代ギリシャの民主政治において、「民衆指導者」という意味でしたが、次第にデマを利用して大衆を煽り利用する「民衆扇動家」「扇動政治家」を意味するようになりました。

 皆さんは普段の生活の中で、噂話や陰口を聞いて何の根拠も確かめずにすぐに信じたり、そのまま人に伝えたりしたことはありませんか。あるいはデマゴークのような人たちの言葉に、つい心を動かされてしまうようなことはありませんか。

 現代は、テレビやインターネット等、身近に手軽に、さまざまな情報を得ることができます。しかしそのすべてが正確であるとは限りません。フェイクニュースなどのように、根も葉もない嘘が含まれていることも少なくありません。特に大きな事件や災害が起きたときには多くのデマが広がり、特定の人や企業が被害を受けることがあります。

 このような噂やデマを含めた大量の情報が氾濫して、社会が混乱状態になることをinformation pandemic、「infodemic」と世界保健機構(WHO)が命名したそうです。

 「流言は智者に止まる」という言葉があります。今から約2300年前の中国、戦国時代の思想家であり、性悪説を唱えた荀子の言葉です。「知恵のある人、道理をわきまえた人は、簡単に噂を信じない。聞いたとしても自分の胸の内にとどめておく」という意味になります。

 情報が多く溢れている現代においてこそ、不確かな情報に惑わされないこと、情報を無条件に他者へ伝えることなく断ち切ることができる力が求められています。これからの社会を生きる力、社会をより良くする力を、皆さん一人ひとりがしっかりと身につけてくれること大いに期待しています。