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2学期始業式 学校長講話 「リンゲルマン効果」

 今日は、「リンゲルマン効果」についてお話しします。人間は集団で仕事をします。みんなで力を合わせれば仕事も早くより多くのことができるようになり、そのようにして生産性を向上させてきました。しかし人間は集団になると1人で作業するときよりも、1人当たりの作業効率はかえって低下するということが起きるそうです。

 100年前にドイツの心理学者リンゲルマンが、綱引きでの牽引力を測定する実験を行いその理論を確認しました。1人で引いた時の力を100%とすると2人で引っ張ると1人当たりは93%、5人では70%になり、8人では50%になったそうです。

 この実験から、集団で作業を行う場合、メンバーの人数が増えれば増える程1人当たりの貢献度が低下するという現象が確認され、人が増えると無意識に手を抜くこの心理現象が「リンゲルマン効果」あるいは「社会的手抜き」と呼ばれています。

 この社会的な手抜きは、肉体的なperformanceに限らず認知的なperformanceでも現れ、集団のサイズが大きくなる程、全体の生産性が頭打ちになると考えられています。そこには、共同作業の落とし穴である「自分が頑張らなくても誰かがやるだろう」「自分ひとりぐらい」という群集心理が働き、人数分だけ責任感が拡散すると言われています。

 少し前にNHK Eテレで興味深い実験が放映されました。「停車したトラックを縄で引っ張る」という綱引き実験です。1人ずつ挑戦すると平均106kgの牽引力を発揮します。 3人で一緒に挑戦すると平均100kgの牽引力になり、5人で一緒に挑戦すると平均97kgまで低下しました。メンバーを代えてもやはり牽引力の低下が確認されました。リンゲルマンの実験と同じ結果でした。

 しかしこの実験が興味深いのはその後でした。綱引き競技の専門家である日本綱引き連盟の人たちで同様の実験を行いました。するとどの場合でも牽引力の低下はありませんでした。つまり集団になれば必ず社会的手抜きが起きるとは、限らないということの証明になりました。

 例えば学校行事にクラス全体で取り組む時と、クラブ活動で試合や大会に向けて取り組む時との違いとしてイメージできるはずです。つまり目標を明確に共有したチームとしてperformanceを発揮する時などは、社会的手抜きは起こらないはずです。

 それは一人ひとりが自分たちの目標に向けて、自分の役割に自覚と責任を持っているからです。集団の中での役割と責任、そして自分の存在を明確に意識できることが、チームとしてのperformanceを向上させることになります。

 これから私たちが生きる社会では、多様な仲間と一緒にチームとして大きな力を発揮できる能力を持っていることが不可欠になります。そのためには「自分ひとりぐらいは」という意識を、「自分がいなければ」「自分がやらなければ」という意識に変えていくことが必要となります。

 社会人であれば、自分たちの会社や組織が担当する仕事とその中での自分の役割に対して、一人ひとりが誇りと責任を持って取り組むことが重要になります。物事をなす時に何のためにやるのかという問いかけとその答えが、それぞれの中で明確にされ行動につながると、チームとしてのperformanceは掛け算的に大きくなります。

 やはりチーム、集団、組織を構成する根源は、やはり一人ひとりの人間です。他人事ではなく自分事として、全員が当事者意識を持って取り組むことが大切になります。 そしてそのトレーニングの場が学校です。授業、各行事への学級活動、クラブ活動など、それぞれへの取り組みが、すべてトレーニングとなります。

 自分が大きく成長し、充実した2学期を送ってくれることを大いに期待しています。