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令和3年度修了式 学校長式辞

 校庭の桜の蕾が膨らみ始める中、今年度の修了式は様々な状況を踏まえ、昨年度と同様例年とは異なる形式での実施となりましたが、皆さんの中学校課程の修了を讃える思いは、何ら変わるものではありません。

 今日、皆さんは中学校の課程を修了し、無事に卒業の日を迎えました。本当におめでとうございます。コロナ禍により学校生活が制限され、様々な学校行事や宿泊行事が変更あるいは中止になり、皆さんには本当に申し訳なく思っています。そのような状況の中で新しい生活様式を踏まえながら、精一杯色々なことに取り組んでくれた皆さんに改めて感謝します。

 今、3年間を振り返った時に、勉強はもちろんクラブ活動、学校行事、友達と過ごした時間など色々なことを体験した記憶が蘇ってくることだと思います。皆さんにとってすべてがかけがえのない大切な思い出になっていることを願っています。

 今日は修了式に際して静岡大学教授の稲垣栄洋先生の言葉を紹介します。稲垣先生は雑草や昆虫など身近な生き物についての著作や講演を多くされています。「長い生命の歴史の中で生き残ってきたものは弱者でした」という言葉です。

 例を挙げると2万数千年前に絶滅したとされるネアンデルタール人は、現生人類と同じ大きさの脳を待ち、体も大きく頑丈でした。しかし生き物として優れていたはずの彼らは地球上から姿を消します。稲垣先生はそれを「彼らは環境の変化に耐えられなかったせいだ」と考えているそうです。

 ネアンデルタール人よりも弱かった私たちの祖先である現生人類は、変化に対して仲間で力を合わせて知恵を絞り、そのおかげで生き残ることができたそうです。「強いものはその強さのために変化を望まず、多様性に順応しにくいけれども、弱者はそうではない。環境に自らを合わせる柔軟性があるのです」とも述べられています。

 弱さは変化を乗り越えるための知恵と結束を生み出し、弱さに気づいたときこそ強くなれるチャンスでもあり、弱いからこそ強くなれると受け止めることが大切になります。 そのためには自分自身のこと、自分の良いところ、良くないところ、あるいは得意なこと、苦手なこと等を自分自身が正しく知ることが重要になります。

 その為に必要な能力を「メタ認知」と言います。メタ認知とは心理学の用語で、自分の考えについて考えること、あるいは認知に対する認知のことになります。メタとは「高次の」という意味で、自分の認知活動(感じ方や考え方)をより高い視点から、まるで第三者のように客観視し、これらを理解、評価、制御することになります。

 メタ認知の高い人は、イメージ的には自分以外にもう一人の自分がいて、自分のことを上から客観的に眺めて自分自身をコントロールできることになります。それは自分の感情をコントロールする力、自分の行動がどのような結果になるかを考える力、そして周りの人の気持ちを想像する力に繋がります。この能力は生まれながらに持っているものではなく、トレーニングで身に付けるもので、学校での生活や学習、ビジネスでの問題解決などにも役立つ能力になります。

皆さんは春から高校生となり、新しい生活を楽しみながらも自分の進路を真剣に考える時期を迎えます。成績の善し悪しではなく、自分が本当にやりたいこと、生涯をかけて取り組んでみたいことを探してみてください。

 各教科の授業、学校行事、ボランティア活動等の学校生活から見つかることもあります。あるいは家庭や地域での体験、色々な人との出会いや会話から見えてくることもあります。大切なことは自分の将来をイメージすることです。そして目の前のこと、今できることに打ち込みながら、メタ認知を高めるトレーニングをすることです。

 高校生になるということは、自分が求めなければ何も手に入らない環境で学ぶことだと改めて理解することが重要になります。春からの新しい生活をうまくスタートしてくれることを大いに期待しています。

 最後に一つ皆さんに報告することがあります。実は私自身も、今年度この3月末で教員生活を卒業することになりました。今、振り返ると、長いような短いような色々なことを経験できた42年間だったように感じています。沢山の先生方を始め、皆さんや多くの卒業生に出会えた充実した教員生活であったと心から感謝しています。

 皆さんには色々な話をする毎に、これからの社会を生き抜く為には、予測不能なこと、未知なることへの対応力や適応力の重要性を発信してきました。そして私自身もその実践者として、今後は今までとは全く異なる地域、環境、そして新しい分野で働き、暮らしていく予定になっています。皆さんの手本になることは難しいかも知れませんが、見本になれるように有言実行で楽しみたく思っています。

 その折には二つの言葉を大切にしようと考えています。一つは、晩年まで新しい表現を求め、最期まで新しい道を模索し続けたパブロ・ピカソの「明日描く絵が、一番素晴らしい」という言葉と、もう一つは、作家、教育評論家の中井俊巳さんの「いいことが起きたから笑顔になるのではなく、笑顔だからいいことが起きる」という言葉です。この二つの言葉と伴に、人生100年時代といわれるこれからを歩んでいきたく思っています。皆さんとの出会いに心から感謝し、離任の報告とします。本当に有難うございました。