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卒業証書授与式(高校課程) 学校長式辞

 冬を乗り越え校庭の梅の花が満開になり、木々にも新芽が姿を現し、春の訪れが感じられる良き日になりました。本日、令和元年度第72回近畿大学附属高等学校の卒業証書授与式を挙行できますことを心より嬉しく思います。今年度は色々な状況を鑑み、例年とは異なる卒業式になりましたが、皆さんの3年間の取り組みや皆さんの卒業を祝福する思いは何ら変わるものではありません。

 改めまして、卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。本日ここに900名が高等学校の全課程を見事に修了し、素晴らしい卒業の日を迎えました。様々なことを乗り越え、最後まで全力で頑張り通した結果です。今日という日を迎えたことに全員が大いに胸を張って下さい。皆さんの真摯な努力に心から敬意を表します。

 今、私たちの周りには色々な情報や多くのkeywordが溢れ、これからの社会の変容が様々に予測されています。AIやIoT等の台頭が多くの人間の仕事を奪い、そしてSingularity(技術的特異点)を境にAIが人間の能力を超えるなどとも懸念されています。

しかし今までも多くの企業がInnovationを進めるたびに新しい職業が生まれ、既存の専門職を置き換えてきました。これからの変化の激しい社会を生き抜く為に必要な能力とは、人間が果たすべき役割、人間が担うべき仕事において求められる能力となります。そしてそれはAIが「解なし」と言った時にこそ、本領を発揮できる力であるとも言われています。

 今日は卒業に際して2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞された京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥教授の言葉を紹介します。山中教授は本学園の評議員でもあります。

「実験が予想外の結果『失敗』に行き着くことがあります。私は残念がるよりワクワクします。医師の世界で失敗は許されませんが、研究は違う。新たな発見につながっていきます」

 失敗にワクワクするとはにわかには信じがたい言葉ですが、山中教授はその失敗から、ますます研究の楽しさにのめり込んでいくと話されています。この言葉は音楽プロデューサーであるつんく♂氏との往復書簡の中にある言葉だそうです。お二人に共通するのはその失意に沈み込まないで、挑戦を続けるということになります。

本校の卒業生でもあるつんく♂氏は2014年に喉頭ガンを患い、失意の中で「声を捨て生きる道を選ぶ」ことを決断され、音楽家としての生命でもある声を失われましたが、現在も本大学の入学式のプロデュースをはじめ、エンターテイメント界での活躍を続けられていることは
よく知られています。

 山中教授は常に、アメリカ時代の研究所長からの教えである「Vision and Work Hard」に忠実たらんと心掛けているそうです。日本人は「Work Hard」では、世界に負けない勤勉さを誇っているが、足りないのは「Vision」である。このVisionがはっきりしていれば失意に沈んでいる暇はない。

山中教授にとっての「Vision」は、「今治せない病気やケガを将来治せるようにする」ことであり、そのVisionこそが、失敗をワクワクに変え、新たな発見へと繋げていくそうです。

 米国のシリコンバレーには「Fail Fast(早く失敗しろ)」という有名な言葉があります。 時間と費用を使い過ぎる前にあらゆることを検討し、失敗して学んだことが成功につながるということです。もちろん高い目標に挑戦することが前提となります。

Googleの研究機関であるGoogleXの統括責任者、アストロ・テラー氏は、失敗した社員を表彰台に挙げ、「よくやった、みんな見習おう」と皆の前で誉めて評価するそうです。

 ただ失敗をしようと言うだけではなく、失敗できる雰囲気、失敗を恐れず研究する勇気をつくることが大切であり、それが成功に繋がる失敗を生み出すことになるそうです。 すると会議で積極的に新しいアイデアが出されるようになり、活発な話し合いで欠陥を見つけ出し、それを潔く捨てていく空気が生まれ、革新的な企画が数々生まれるようになったそうです。

 これからの大学や社会での皆さんが取り組む学びは、自分は何をしたいのかという主体性と自分はやればできるという自己肯定感、そして自分は役に立つ人材なのだという自己有用感をしっかりと持つことで成立します。

その時に必要な能力は、やはり学力と学習力です。学力とは正解のない課題への最適解や納得解を求めるために必要な知識であり、学習力とは様々な仲間と協働しながら知識を活用できる力です。

 最後にWinston Churchillの言葉を贈ります。「成功は決定的ではなく、失敗は致命的ではない。大切なのは続ける勇気だ。成功とは、意欲を失わずに失敗に次ぐ失敗を繰り返すことである」自分の力に自信を持ち、じっと待つのではなく自らが積極的に求めなければ、何も手に入れることはできないということを今一度理解してください。

 自分の進むべき先をしっかりと捉え、自分の可能性を信じ、力強くスタートしてくれることを大いに期待し、皆さん全員が元気に笑顔で、様々な分野で活躍することを心から応援しています。皆さんの前途が幸多いものとなることを祈念しまして祝辞とします。