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平成31年度 入学式式辞

 満開の桜の花が春風に舞い、緑の若葉が顔を出し始めたこの良き日に、近畿大学法人本部より清水由洋理事長をはじめ、多くのご来賓の皆様のご臨席を賜り、平成31年度近畿大学附属高等学校・中学校の入学式を挙行できますことを心より御礼申し上げます。

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。今日から皆さんは近畿大学附属高等学校・中学校の生徒です。本年度、高等学校へは男子590名、女子364名、併せて954名、中学校へは男子164名、女子128名、併せて292名、新入生の総数は、1246名となります。

 きっと全員が自分の目標に向けて、日々努力を重ね、時には厳しい現実とも向き合いながら、様々な困難を乗り越えて、今日の日を迎え、喜びもひとしおだと思います。どうぞ今日の自分にしっかりと自信を持って下さい。ここから見ていると、皆さん一人ひとりの顔が、とても素晴らしく輝いています。この凜とした空気の中に、これから始まる新しい学校生活への皆さんの大きな期待が、とても感じられます。そしてそんな皆さんを本校に迎えることができ、本当にとても嬉しく思っています。

 今日は皆さんに、これからの3年間あるいは6年間の実り多い過ごし方について、参考になるお話を紹介します。デンマークの哲学者キルケゴールの「野鴨の哲学」というお話です。

 デンマークのジーランドというところに美しい湖がありました。その湖には、毎年遠くから野生の鴨の群れがやってきました。湖畔に住む一人の心優しい老人が、鴨たちに餌を与え始めました。渡り鳥の野鴨は、湖に住みつくことはありません。ある季節を過ごし、餌を求めて飛び立つのが普通ですが、鴨たちは、苦労せずに餌を貰えるこの湖に安住してしまいました。

 ある日その老人が亡くなり、鴨たちは餌を求めて飛び立とうとしますが、快適な環境に慣れ、野生の羽ばたきができません。そこに周囲の山から大量の雪解け水が、激流となって湖に流れ込みます。他の鳥たちは難なく飛び立ちますが、肥り過ぎた野鴨たちは、押し流されて命を失ってしまいました。

 これは実際の話ではなく、湖畔で療養中のキルケゴールが、渡ってくる鴨たちを眺めて過ごしていた時に、心の中に浮かんだ想いを基に、「野鴨の哲学」としてまとめられた話だそうです。野鴨は、本来は数千キロを飛ぶことができる逞しい鳥です。ニュージーランドから中国までを約1週間で飛んでくるそうです。その逞しい鴨でさえ、環境に安住すると本来の生命力を失い、ちょっとした環境の変化にも対応できなくなってしまう。

 この話に感銘を受けた人物が、世界的グローバル企業の一つであるIBMの創業者トーマス・ワトソンです。彼は「Wild Ducks(野生の鴨であれ)」という合言葉で、社員に現状への安住を否定させ、IBMを世界的企業に育て上げました。

 そのIBMが成長し、従業員が3900名になった時に、父の哲学を受け継いだ息子のトーマス・ワトソン・Jrは、「3900羽の野鴨たち」という本を出版しました。その著書の中で「野鴨は、飼い馴らすことができる。しかし飼い馴らした鴨を野性に返すことはできない。飼い馴らされた鴨は、もはや、どこにも飛んでいくことはできない」と述べています。

 毎年、冬にやってくる渡り鳥の鴨に、来る年も来る年も餌をやり続けていると、そのうち何羽かはすっかり怠け者になり、最後は自分の力で飛ぶことすらできなくなる。野鴨の精神とは、ハングリー精神であり、それは生きる力の原点です。そして本来は、生きるために全員が持っているはずのものです。

 しかし普段の生活の中で、「これぐらいでいいだろう」とか、「自分がしなくても誰かがやってくれるだろう」という発想こそが、主体性のない飼い馴らされた鴨をつくることになります。日頃行っていることをやらされているという受け身ではなく、積極的に捉えて、自分は何をしたいのか、自分はどうなりたいのかという思いを、自分自身でしっかりと持つことが重要になります。

 本学の学園章は、先日発表された新元号「令和」の由来の中でも登場する梅の花を象徴しています。
そしてその花びらの一部が離れているのは、内面の未完を表し、現状に止まることなく更なる完成、より高い目標を目指す、未来志向の姿勢が込められています。

 今日から、皆さんの本校での新しい生活が始まります。これから3年間あるいは6年間をかけて、この学園で学ぶ目的は、自分の持つ力を自分で掘り出す力、学び方を身につけることです。「夢は見るものではなく、叶えるもの」という言葉があります。そのためには、学校生活における様々なことに興味・関心を持ち、主体的に考える習慣を身につけ、自立した学習者になることです。

 学校は、自分の夢を実現するためのトレーニングの場です。「人に 愛される人、信頼される人、尊敬される人になろう」という校訓は、それを覚えることが目標ではなく、自分ならば、どのような人を愛し、信頼し、尊敬するかを考え、その実現に向けて自分自身が実践することが目標です。

 近畿大学附属高等学校・中学校には、皆さんが存分にトレーニングできる環境があります。それをうまく活用できるかどうかは、自分次第です。自分はどうなりたいのかという思いこそが、自分の夢への第一歩です。

本校ではたくさんの先生が、皆さん一人ひとりにしっかりと向き合い、様々な学びの場を提供します。皆さんがたくさんのものを手に入れ、そして自分で考えること、仲間と協力することを楽しんでくれることを大いに期待しています。

 新入生の保護者の皆様、改めましてお子様のご入学、誠におめでとうございます。今日の良き日を迎えられましたことを心よりお祝い申し上げます。本日より3年間あるいは6年間、私ども教職員一同のみならず、近畿大学学園が責任を持って、大切なお子様をお預かりいたします。

 生徒達は、学校生活の中で色々な課題と出会いながら自立し、これからの社会をより良く生きるための力を育んでまいります。様々な経験・体験を重ねながら、心身ともに大きくたくましく成長します。時にはトラブルを通して、社会生活の根幹を学んでいくことになります。

 生徒達のより良い成長には、保護者の皆様と教職員が、心を一つにチーム近大附属として、生徒達を見守り、育んでいくことが大切です。附属高等学校・中学校では、生徒全員が自分の夢を大きく育て、
将来、立派に実現できる力を身につけるように、精一杯力を尽くしますので、どうぞご安心してお任せ下さい。本校へのご理解ご協力を重ねてお願い申し上げまして、入学の式辞とさせて頂きます。

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