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平成30年度 一学期終業式 校長訓話「パラダイムシフト」

 今日は、イギリスの詩人、スティーヴィー・スミスの代表作とも言われる「手を振っているんじゃない、おぼれているんだ」という少し奇妙なタイトルの作品を紹介します。作家の落合恵子さんがコラムの中で、その詩の意訳を紹介していました。

「わたしは岸辺で海を見ている。と、遠く波間で手を振るひとがいる。
そこでわたしは、波間のひとに手を振り返す。
そしてやがて波間のひとのことは忘れて、砂浜の貝を拾いだすかもしれないし、ポットから注いだ紅茶を飲むかもしれない。そうして......。
しばらくの後、わたしは知らされるのだ。
波間で手を振っているかのように見えたひとは実は、溺れて助けを求めていたのだ、と。助けることができなくなって、から。」

 海岸で遠くを見ていると、波間に手を振る人がいる。手を振り返してしばらくした後、実はその人は溺れていたと知る。そのときにはもう助けることができない。

 落合さんは、コラムの最後に、「同じようなことが日々、私たちの社会で、身近で起きていないか。足がすくむ。あなたや私の近くでいま、『手を振っているひと』はいないか? 手を振り返すことが、わたしたちの返事でいいのか。」と書き添えています。

 「手を振るのは挨拶だ」という思い込みが邪魔をして、相手が本当に伝えたい「助けてくれ!」というメッセージをキャッチできなかったということになります。溺れている人を見殺しにする人はいないはずです。もしメッセージをちゃんとキャッチできていれば、助けられたのかもしれません。

 「高い穴に落ちた女の子」という話があります。高い穴ではなくて、深い穴ではないかと思う人が多いはずですが、こんな話です。

「ある女の子が泣きながら、此方に向かって走ってきました。そして、大人たちに、お友達が高い穴に落ちちゃったの。お願い、誰か助けて!と懸命に訴えます。その場にいた大人たちのほとんどが、高い穴ではなくて深い穴だろと思いましたが、一人の女性だけは、反応が違いました。その女性はすぐに女の子のそばに駆け寄って、女の子の目線に合わせて、しゃがみ込んで右手を大きく上げて、指を伸ばしたまま手首を90度曲げ、その手を見ながら、『お友達は、今、とっても高い穴の中で、一人ぼっちで怖い思いをしているんだね。』と言いました。」
 女の子は、穴に落ちた友達の目線で「高い穴」と表現していましたが、ほとんどの大人たちが、「高い穴」という表現自体が正しくないと疑問を抱きました。そして大人たちが、女の子に「それは高いじゃなくて深いだよ」と諭すだけでは、自分たちの思考がそれより先に進めなくなるということを示しています。

 「パラダイムシフト」という言葉があります。「パラダイム」には語形変化表という意味もありますが、一般的にはある時代や分野において支配的規範となる「物の見方や捉え方」を指します。そして「パラダイムシフト」とは、ある時代や集団の中で当たり前のように浸透していた考え方や概念が、劇的、根本的に変化することを指す言葉となります。

 天動説が当たり前だった時代に、地動説が唱えられた時、最初は誰も信じない、信じるはずもない。それがパラダイムシフトです。私たちが生きることになるこれからの世界では、重要なキーワードであり、一人ひとりに「物の見方や捉え方を変える」力が求められます。

 これから始まる夏期休暇をうまく活用しながら、当たり前や思い込みの中から抜け出し、じっくりと「考える」楽しさを味わってほしいと思います。色々な体験、取り組みを通して、自分のパラダイムシフトを発見し、元気に成長した姿を2学期に見せてくれることを楽しみにしています。 

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